相続登記を自分でやることのリスクとデメリット
相続登記を司法書士に依頼せず、ご自分で手続きしたいという方もごく稀にいらっしゃいます。確かに、ご自分で戸籍を集め、遺産の分け方を決定し、遺産分割協議書を作成したうえで、法務局に何度も足を運んで手続きすれば登記自体は可能かもしれません。しかし、そこには大きな落とし穴があります。
①亡くなった方の戸籍・ご自分の戸籍は1つずつでは足りない。
亡くなった方の戸籍謄本を提出する場合、最新の戸籍謄本だけを取得すればよいのではありません。亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本などを取得しなければならないのです。なぜなら、生まれてから亡くなるまでの戸籍すべてを確認しなければ、子供や妻など何人の相続人がいるか証明することができないからです。たとえば、前妻との間に子がいる場合は、最新の戸籍謄本にはその子のことが記載されていないケースもあるからです。
たとえば、亡くなった時点での本籍地が宇都宮市であれば、宇都宮市役所窓口で戸籍謄本を取得できますが、その1つ前の本籍地が高根沢町であれば、高根沢町役場まで取りに行くか、郵送で請求しなければなりません。さらにその前が壬生町であれば壬生町に請求します。このように、本籍地が点々としている場合に戸籍の収集をするのは非常に大変です。また古い戸籍(除籍謄本や原戸籍謄本)になると、戸籍の文字が手書きで書かれていることも多く、解読には法律知識と経験が不可欠です。
司法書士などの専門家が戸籍を収集しても非常に大変な業務です。ご自分で戸籍収集をすること、これがまず最初の関門となります。
②誰が相続人か判断しなければならない
亡くなった方の長男がすでに亡くなっている場合や、亡くなった方の相続手続をしないまま長男が亡くなった場合など、相続関係が複雑になる場合には、誰が相続人になるか法律を踏まえて慎重に判断しなければなりません。
③遺産をすべて調査しなければならない
相続を分けるにあたって、まずは相続財産を確定しなければなりません。つまり、不動産も含めてすべての遺産が、どこに、どの程度あるか調べなければならないのです。全部の遺産が判明したうえで、ようやく、では遺産の分け方を決めましょう、となるのです。
ここで難しいのは次のような場面です。
- 栃木銀行にも預貯金があったのに、知らずに相続しなかった
- 大和証券宇都宮支店に投資信託があることがしばらく後に判明した
- 家の前の道路部分の相続登記を忘れてしまった
- 遺産を分けたあとに、公正証書遺言があることがあることがわかった
- 消費者金融から借金があることが1年後にわかった
- 車のローンの支払いが残っていたことを忘れていた
遺産の相続手続を忘れてしまったため、数年後にあらためて相続手続をすることはとても大変です。司法書士に依頼して遺産の調査をしてもらうことも重要です。
④相続登記忘れをしてしまったら・・・
たとえば、自宅前の道路部分の相続登記をすることを忘れてしまった場合は、後々大変なことになります。20年後に相続登記を忘れていたことが判明し、道路部分だけ曽祖父名義だったことがわかったりすると、10人以上の相続人からあらためて実印をもらわなければならなくなったりします。実は、この相続登記忘れこそ、自分で相続登記をする場合の一番のリスクです。あとから相続登記を忘れた場合に、希望通りに手続きができる保証はないのです。
当職も、こういった相続登記忘れを何度もみてきました。やはり当時司法書士に依頼せず、ご自分で相続登記をした場合がほとんどです。また、稀に司法書士に依頼して相続登記をしていたのに、その当時の司法書士の知識不足と経験不足で一部の物件の相続登記漏れが判明したこともありました。
当事務所では、相続登記忘れがないよう、市役所や法務局、場合によっては現地調査もおこない、慎重には慎重を期しています。
⑤不動産調査の結果、判明することがある
当職が過去に不動産調査をおこなったところ、以下のような事案を発見したことがあります。
- 自宅前の土地が他人のものであった
- 既に完済した住宅ローンの担保(抵当権)がついたままになっていた
- お隣との境界がはっきりしていないことがわかった
- お隣の土地と自分の土地で、所有者がひっくり返っていた(それぞれ間違って登記されていた)
- 団信で住宅ローンを完済したはずなのに、抵当権はついたままになっていた
- 自宅と大きい道路とを結ぶ狭い道路の角の隅切りされた土地の権利も持っていることがわかった
- お墓を所有権としてもっていることがわかった
- お隣の方が使っている畑は実は自分の土地であることがわかった
- 畑に30年以上の前の抵当権がついていることがわかった、などなど
- 名義が曽祖父の畑が見つかった
こういった問題は先送りすると、解決がより難しくなります。
登記は先延ばしすればするほど手続が複雑になるのです。遺産調査のときにしっかりと司法書士に調べてもらうことが重要です。これは人間ドッグで医者が病気を早期発見するのと似ていることかもしれません。
⑥遺産の分け方を考えなければならない
不動産だけでなく、預貯金や株式・投資信託などの証券などの遺産をどのように分けるか、ご相続人全員で決めなければなりません。
遺産分割協議の際、よく考えなければならないのは、以下のような場合です。
- 不動産を相続した後、売却し、売買代金を分ける場合(不動産の名義はどうするか)
- 誰か1名が相続財産をすべて引き継ぎ、他の相続人はその方から現金を受け取る場合
(贈与とみなされないためにはどうするか) - 後々もめないような文章を作成すること
- 税務上のことも踏まえた文章を作成すること
- さらに次の相続のことまで考えて分け方を決めているかどうか
- 相続税がかかる場合に、払う相続税が少ないような分け方になっているか、などなど
遺産の分け方も、不動産だけでなく、遺産の全体を見渡したうえで、法律上税務上の面からも検討のうえ、分け方を決定すべきです。専門家に依頼せず、ご自分で登記などの相続手続をされる方は、後々にかかる費用が増えるリスクもあるのです。
⑦法務局に何度も足を運ばなければならない
ご自分で相続登記をする場合には、登記申請書などを自分で作成し、平日の日中に法務局に何度も足を運ばなければなりません。相続人のうちの最低1名はこういった面倒な手続をしなければならないのも大きな負担です。
このように見ると、相続をご自分ですることは、将来的に見てもお客様の利益になっているかどうかはわかりません。司法書士業務もAIに取って代わられると言われていますが、司法書士の業務は実は単純な業務ではないのです。そのようなことも念頭に入れてご検討いただければと思います。